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東京地方裁判所 昭和55年(特わ)1913号 判決 1980年12月04日

主文

被告人Aを懲役二年及び罰金二〇〇〇万円に処する。

未決勾留日数中一〇〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人Aを労役場に留置する。

2 被告人Bを懲役一年六月に処する。

未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。

被告人Bに対し、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人Aは、いずれも全国各地のホテル等において短期間の展示販売会を開催し、物品税法一条別表掲記の第一種番号一ないし四の物品である貴石製品等の小売業を営んでいたC株式会社(本店所在地東京都千代田区神田駿河台×丁目×番地×)、株式会社D(本店所在地同都中央区日本橋茅場町×丁目×番地)及び株式会社E(本店所在地同都港区六本木×丁目×番××号。昭和五三年五月七日商号をF株式会社に変更)の各会社の実質経営者として右各会社の業務全般を統括し、また、マックスダイヤモンドの名称を用い、同都中央区銀座×丁目×番××号□□□会館ビル×××号室に販売場を置き前同様の方法で貴石製品等の小売業を営んでいたもの、被告人Bは、同Aを補佐して右各会社及びマックスダイヤモンドの業務全般を総括処理していたものであるが、被告人両名は共謀のうえ、右各会社及びマックスダイヤモンドの業務に関し物品税を免れようと企て、右各会社及びマックスダイヤモンドが販売した各月の実際の課税標準額が別表(一)ないし(四)記載のとおりであったのにかかわらず、正規の帳簿には右小売事実の一部のみを記載し、その余の小売事実については実際の売上伝票等を隠匿保管するなどして秘匿したうえ、同表記載の申告日に同表記載の各所轄税務署において、同税務署長らに対し、右各会社及びマックスダイヤモンドの各小売月の課税標準額及びこれに対する物品税額がそれぞれ同表記載の申告課税標準額、申告物品税額である旨の虚偽の物品税納税申告書を提出し、もって、不正の行為により、同表記載のとおり、各会社及びマックスダイヤモンドの各小売月における正規の物品税額と右申告税額との差額(合計二億一二八三万六五〇〇円)をそれぞれ免れたものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人両名のC株式会社、株式会社D及び株式会社Eに関する判示各所為は、いずれも右各会社の業務に関しなされたものであるから、刑法六〇条、物品税法四七条、四四条一項一号に該当し、被告人Aのマックスダイヤモンドに関する判示各所為は、いずれも刑法六〇条、物品税法四四条一項一号に該当し、被告人Bのマックスダイヤモンドに関する判示各所為は、いずれも被告人Aの業務に関してなされたものであるから、刑法六〇条、物品税法四七条、四四条一項一号に該当するところ、被告人Aについては、いずれも懲役と罰金を併科し、かつ、各罪につき情状により同法四四条二項を適用(ただし、別表(二)の6、7、同(三)の1、3、8を除く。)し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い別表(一)の10の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で同被告人を懲役二年及び罰金二〇〇〇万円に処し、同法二一条により未決勾留日数中一〇〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとする。次に被告人Bについては、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い別表(一)の10の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、同法二一条により未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、全国各地のホテル等において、法人名義もしくは個人で貴石製品等の展示販売を営んでいた被告人Aが、その業務全般を総括処理していた被告人Bと共謀のうえ、約一年半の間に合計二億一二八三万円余りの物品税を免れたというものであるところ、脱税の動機として被告人Aが供述するところは、同被告人が上京前に金沢市で経営していた貴金属製品等の販売会社の負債等を返済するためであったなどというのであるが、これが脱税を正当化する理由にならないことはいうまでもなく、他に本件脱税の動機として酌むべきものは認められない。また、脱税の額もこの種事犯としては他に例を見ないほど高額であり、逋脱率も決して低いとはいえない。しかも、被告人Aは、昭和五一年七月から判示のごとき販売会社を順次設立し、いずれも別に名目上の代表者を置いたうえ、被告人Bを通じてその実質的な経営を行ない、さらに、展示販売会を企画管理し、その経理事務等を処理するためとして株式会社G、H株式会社、株式会社I、J株式会社などのいわゆる企画会社を次々に設立し、Aグループと呼ばれるものを形成したのであるが、こうした複数の販売会社設立が、一面において、脱税の発覚や摘発の波及を防止し、もって危険の分散を図る意図のもとになされたことは否定し難い。また、右企画会社の設立も、後述の脱税方法を容易にするとともに、脱税の発覚を防止する意図を含めてなされたことは明らかであって、いずれも本件脱税に向けて講じられたものといえる。そして、この企画会社では、全国各地の展示販売場から売上伝票等の送付を受け、脱税の手段として、公表分の内容に見合うよう仕入先の納品書を作り直して仕入先の押印をもらったり、勝手に納品書を偽造したほか、一か月分の売上伝票を完全に書き直すようなことまで行なっており、このようにして、本件脱税は、極めて計画的かつ組織的に行なわれた悪質なものといわざるを得ない。しかし、反面、いわゆる他社振替分等を含め相当額の物品税が申告・納付されていること(別表各参照等)などは、有利な事情として看過すべきではない。

次に被告人両名の個々の情状をみるに、被告人Aは、昭和四七、八年ころから金沢市を本拠として貴石製品等の小売販売業を始め、間もなく、いわゆる移動式・展示販売方式を採用して次第に商圏を拡げ、一時は不渡処分を受けるなどしたものの、昭和五〇年夏ころには本拠を東京に移し、前示のようなAグループを形成するに至ったもので、その間、物品税の脱税を続けて摘発を受け、昭和五〇年六月には金沢国税局長から、同五二年七月には東京国税局長からそれぞれ通告処分を受けたものであるが、こうした摘発や処分にもかかわらず、なおも脱税を継続し、ことに本件犯行のころには、被告人Bの背後にあってこれに指示、命令を与えるなどして、脱税を推進していたものであり、さらに、本件の摘発を察知するや、伝票、帳簿類の廃棄等を指示し、実質的経営者を被告人Bひとりにする旨を打ち合わせるなどの証拠の隠滅行為を行なっており、このような事情に照らすと被告人Aの刑責は重い。次に被告人Bは、昭和四九年被告人Aに雇われ、当初は一従業員にすぎなかったものの、被告人Aと情を通じ、また能力を認められたこともあって、次第に脱税への関与を深め、同五一年一二月前記株式会社Gの代表者に就任してからは、Aグループの実務全般を総括処理する立場にあってむしろ積極的に脱税の手段を講じていたものであり、同五二年七月には被告人Aともども物品税法違反につき通告処分を受けており、その刑責は軽視できないものであるが、高校卒業のころに被告人Aと知り合い、以後同被告人と行動を共にした結果、本件の脱税に関与するに至ったものであり、本件についても被告人Aの指示、命令を受けて行動していたものといえるし、今回の身柄拘束により反省の機会を与えられている。

以上の事情のほか、被告人両名の身柄拘束の状況、反省の態度、身上、家庭環境その他本件にあらわれた全ての事情を考慮したうえ、主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 川口政明)

<以下省略>

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